碑文谷クリニック 永野 修院長 (学芸大学) インタビュー
1986年の開業以来、痛みの専門家(ペインクリニック)として地域の患者さんを支える碑文谷クリニック。やさしい口調で「治りたい気持ちを後押しするのが仕事」と語る永野院長は、笑顔が印象的な先生だ。
頭より足の先までのどこにでも生じるさまざまな痛みに、時として長期間にわたり悩まされ、どうしても痛みがとれない人は、「痛みと上手に付き合っていく」という考え方を持つことも必要だと先生は言う。そのためにはどうすればよいのか。具体的な治療法、それを裏打ちする永野先生の診療理念など、多くのお話を伺った。
永野 修院長インタビュー昭和61年に開設とのことですが、移転もなくずっとこの場所で診療しているのですか?また、なぜこの地を選んだのでしょうか?
あくまで「地域医療」ですので、移転をするということは考えたことがありません。自分を頼りにしてくれた患者さんをしっかり診ていくという責務もあるためです。この地に開業を決めた理由は、この近くの目黒本町に長く住んで病院勤務をいたこともあり、住み慣れた目黒区に住宅と開業の地を探していたことです。また、私の田舎は土佐の高知なので、羽田からのアクセスがよい土地柄ということも物件を選ぶ条件の1つでした。
当院は職住一体の物件で、建設時に高度制限や諸々の問題があって診療所を半地下にせざるを得ませんでした。お年寄りの患者さんにはバリアフリーの点からは問題がありますが、半地下という居住空間は、夏は涼しく冬は温かいので、意外と便利な面もありますよ。冬には、2階の自宅にいるより診療所にいたほうが温かいぐらいです(笑)。
どのような患者さんが多いのでしょうか?
開業した当初は「ペインクリニック」という診療科が珍しかったこともあり、近隣以外からも多くの患者さんが来院されました。しかし最近では、ペインクリニックも浸透し開業医も増えたこともあり、近隣の患者さんが主たる治療対象になっています。そういった方々には、腰が痛い、膝が痛いなど経過の長い慢性的な痛みを抱えている患者さんが多いですね。
貴院で行っている「神経ブロック療法」とはどういったものなのでしょうか?
簡単に言えば、痛みの原因となっている部位からその痛みを認識する脳までの伝達回路をどこかで遮断(ブロック)することです。「痛み」というのは、人間にとって体の異常を知らせる重要な情報です。そのため、痛みの原因を探さず、安易に痛みのみを取り去ってはいけません。しかし、膝や腰の骨が変形することで出てくる痛みなどは、体にとってはいつまでも必要な情報とはいえず、日常生活に支障のないように取り除くことが必要です。この不必要な痛みをどうやって軽減させることができるかが問題です。
痛みに対処する方法は、西洋医学的な手法から、東洋医学的な漢方や鍼灸、また代替療法としての指圧・整体・カイロプラクティックなどと様々な治療方法があります。我々ペインクリニック外来で行うのは、「神経ブロック」を主体とした様々な治療を行いますが、作用機序の異なる種々の薬を使った薬物療法なども行います。
よく「"局所麻酔"と"神経ブロック療法"は何が違うのか」という疑問をお持ちの方がいらっしゃいますが、やることは同じと言えば同じです。手術や検査に伴う痛みに対応するのが麻酔行為であり、痛みの治療に対応する行為を神経ブロック療法だと思ってください。どちらも一時的に痛みを感じなくする点では同じです。
痛みの不思議なところは、一時的にでも痛みをなくしてしまうと、局所麻酔薬の効果が無くなった時点で痛みを感じたとしても、もともと感じていた10の痛みが6や5の痛みに変わっています。それを繰り返していくことで痛みが軽減していくのです。神経ブロックには、局所麻酔薬を使う方法のほかにも、神経破壊薬と言われるアルコールなどを使ったり、熱や高周波といった物理的な刺激を加えて神経を遮断したりすることもありますが、このような手段を取るときには患者さんに十分説明をして治療がなされます。
なぜペインクリニックを専門にしたのか、また、開業を決意した経緯を教えてください
麻酔科の仕事には、手術時に行う麻酔、重症患者のICU(集中治療室)での管理、心肺蘇生術、痛みの外来(ペインクリニック)などがあります。麻酔管理は、外科医が手術を行う際に依頼されて行うものです。全身麻酔管理を病院と契約して開業している方もいますが、麻酔科医が開業しようとすれば、痛みの外来治療(ペインクリニック)を行うことが一般的です。
私は大学付属病院に麻酔科医として勤務していましたが、医局員は時には関連病院へ数年間出向ということがあります。組織の中ではそれを拒否することもできませんし、立場が上にいくにしたがって次のステップを考えるようになります。自分のやりたいことを続けるには開業しかないと思い開業医になる道を選択しました。
家業して医院も間もなく30年近くとなり、私自身もこの先のことを考えなければならなくなりました。開業当初のようにバリバリと診療するのがつらいときもあり、診療時間や診療スタイルなどを変える時期に来ているのではないかと思っているところです。
先生のお子さんもドクターとのことですが、承継はされないのでしょうか?
それも思案中の問題の1つです。息子は消化器内科を専門としていますが、この大都会のクリニックが乱立する中で、特殊性のない科で開業するのはいかがなものかとも思ったりもしています。
医師数は増えていますが、本当の過疎地や諸島地域では未だに医師不足だというのが現状です。自治医大は、医師免許取得後に各地域へ行くことを条件に、学費を優遇するなどの取り組みを行っているようです。研修が終わった若手ドクターを医師不足の地域で迎え入れる、もしくは年輩の医師が、医師不足の地域で診療ができるように優遇するなどの施策があっても良いのではないかと思ったりしています。
アトピー性疾患もペインクリニックの対象疾患となるのでしょうか?
病気には、しこりや潰瘍ができるといったように「体の組織に器質的異常をきたす病気」と「体の機能的な働きに異常をきたす病気」の2種類があります。体の機能的な面は自律神経系がバランスをとっています。アトピー性疾患は、ある段階になると自律神経のバランスが崩れていることが多く認められ、ペインクリニックを受診されることがあります。
我々は、星状神経節ブロックという治療を試みます。これは、首にある交感神経節に局所麻酔を打ち、交感神経の緊張を緩めることにより、身体全体の血流を改善することで自然治癒力を高めるという手法です。
アトピ―性疾患に自律神経機能が大きく関与していることに間違いはありませんので、主たるアレルギーの原因を探りながらの対応となります。皮膚科的治療で改善しない方などは「星状神経節ブロック」という手法もあることを知っていただきたいと思います。
先生からのお言葉に「医学的処置と併せて"自分の力で治してみせる"という意気込みが大事」とありますが、そういったアドバイスなどにも注力しているということでしょうか?
基本的に我々は、患者さんの"治りたい気持ち" を後押しするのが仕事です。そのためには患者さん自身の協力も必要です。たとえば、タバコを吸うと血管が収縮し血液の流れが悪くなり、症状の回復の妨げになりますので、禁煙指導もします。膝の痛みを訴える方で肥満体型であれば、減量の話をしたり運動を促したりと、日々の生活から改善していくアドバイスをするのも私の仕事だと思っています。
また、腰痛の治療には、神経ブロック以外にもたくさんの治療法がありますが、私のメインは神経ブロック療法ですから、基本的にはそれに同意いただけるようしっかり話し合います。生活指導や運動療法から始まり、薬物療法や理学療法にもチャレンジしてみる。それでも改善しないケースでは、各種手術療法の特徴なども説明します。それらをとおして、我々医療側にできることと、患者さん自身にできることを明確にします。治療手段の選択には段階があり、今の自分に合った治療を選択することが大切です。最良と考えられる治療に出会えるように「一緒にコツコツと頑張りましょう」とお伝えしています。
そうなると1人の患者さんと長期にわたってお付き合いされるのでしょうか?
そうですね。風邪などの急性的な病気は別として、基本的に「病気は治らないもの」だと私は思っています。糖尿病をはじめとする生活習慣病などはよい例で、油断をすればすぐにでも悪くなります。また、腰痛やヘルニアの患者さんも、治療して一時的にはよくなっても何かの拍子に再発する可能性は高く、いわゆる腰に爆弾を抱えているようなものです。生活習慣を正しく保ち日々の運動を欠かさずになさることが、爆発を未然に防ぐ唯一の手段です。
医師をしていてよかったと思う経験はありますか?
患者さんの痛みが、治療によって軽減し「楽になりました」と言って帰られるときです。あとは、患者さんが「あのときはありがとうございました」と顔を見せに来てくれたときでしょうか。普通は、元気になったらその病院に行くことはないですよね?それでも時折、手紙をくださる患者さんやお礼を言いにわざわざ来てくれる方がいます。
我々医者を含め、「先生」と呼ばれる職業に携わっている方々は、何か後ろ髪を引かれる想いをいつもしているのではないでしょうか。学校の先生は、生徒が卒業後にどうなったのかが気になりますよね。弁護士も、自分が担当した人は幸せになったのかと気になっているはずです。我々医者は、自分が行った処置・対応を「あれでよかったのであろうか」、「あの患者さんは元気になったのだろうか」とかいつも思いながら毎日を過ごしているものです。ですから、元気なったという報告や、時には顔を見せてくれてくださることが我々への最高のプレゼントです(笑)。
今後の展望などをお聞かせください
私も70歳を越えましたが、地域の町医者としてもう少しやってみようとは思っています。当院では患者さんを「〇〇様」と呼ばないようにしています。それは、患者様でもお医者様でもなく、患者さんとお医者さんの関係が好ましいと思っているからです。医師と患者には上下関係はなく、フラットな関係だからこそ話せることもあるのではないかと思っています。
そのため、今では白衣も着ないようにしています。白衣を見ると、どうしても緊張してしまうものですからね。もちろん白衣を着て「凛とした姿がよい」とされる場合もありますが、こういったフレンドリーな医師がいてもよいと思うのですが。これからも、このスタイルで診療していこうと思っています。
院長プロフィール<経歴・資格>
東京慈恵会医科大学卒業
ペインクリニック認定医
(元)麻酔専門医
日医認定産業医
<学位論文>
「各種静脈麻酔薬の肺循環に及ぼす臨床的検討」 昭和56年12月28日
碑文谷クリニック 基本情報
住所 | 目黒区碑文谷6-8-20 |
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電話番号 | 03-3715-6633 |
診療科目 | ペインクリニック(麻酔科)・内科 |
診療時間 | 9:30~12:30/16:00~19:00 |
休診日 | 木曜、土曜午後、日曜、祝祭日 |
アクセス | 学芸大学駅より徒歩4分 |
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